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村上春樹とスコット・フィッツジェラルド [本]

「僕は三十になった」と僕は言った。
「自分に嘘をついてそれを名誉と考えるには、五歳ばかり年を取りすぎている」

『グレート・ギャツビー』スコット・フィッツジェラルド/著 村上春樹/訳
2006年11月/中央公論新社

ハルキスト待望の村上春樹の『グレート・ギャツビー』の新訳が出ましたね。
先月購入して以来、読もう読もうと思っていたこの訳書をようやく読み終えました。

『グレート・ギャツビー』を以前読んだのはもう10年前。
きっかけは現代の日本人のほとんどがそうであると思われるけれど、村上春樹の
『ノルウェイの森』を読んでからでした。
今日性のある作家とは言えないしね。
10代の私は当時、ちっともぴんと来ずに、『村上春樹が好きな本』としてすぐに私の記憶の
引き出しの奥に仕舞われました。

それがね、今度の読後感はとても満足しています。
それは自分の歳のせいなのか・・・訳のせいなのか・・・。
でも野崎孝の訳で出版されたのは1957年ですからね。
だいぶ日本語が古くなっていて当たり前ですよね~。
海外文学ってそれがあるからな。
単純にストーリーだけ追いがちで、文章を噛み砕けないままのものもあるような気がします。
もったいない。

それと同時に、どうも『村上春樹の新作』を読んだ気がしてならないのは私だけじゃないはず。
あまりに春樹すぎる表現であり(当たり前だけど)、春樹のルーツが感じられる作品なので、
途中途中で春樹の作品のいろいろな箇所を思い出してしまいました。
なので、純粋に「スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』」を楽しめたとは
なんだか言えない気がして、フィッツジェラルドに申し訳ないような気もしています。
しかし本当に純粋に「スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』」を楽しむためには、
当然原書で読むしかない訳で、今の私にはどの道無理なのですね~。
残念ながら。

でも、もちろんそれを考慮した上でも、『グレート・ギャツビー』はいい本ですね~。
登場人物の台詞とかぴりっとするところがたくさんあって、個性的な登場人物がそれぞれに
呼応しあっていて、ストーリーもエキサイティングだし。
ストーリーだけ追っていた10代の私には陳腐な話しに思えたものですけど、
年齢からくる実感って本当、想像力では絶対に補えませんね。

書き始めの台詞は今回私が特に気に入った台詞です。
語り手のキャラウェイがガールフレンドに冷たくしてしまった後にそのガールフレンドに云った台詞。
文句なく格好いい。
「五歳ばかり年を取りすぎている」この表現は春樹らしい。
と云うか春樹がフィッツジェラルドらしいんでしょうけどね~。

あと
「過去を再現することなんてできないんだから」
これも気に入ってます。
野崎孝の訳では
「過去はくりかえせないよ」なんですけど、春樹の訳の方が断然好き。
ちょっとしたことなんですけどね。

あと
「この女はデイジーとは違い、ずっと昔に忘れられた夢を、時代が変わっても
ひきずりまわすような愚かしい真似はするまい。」
これもお気に入り。
野崎訳は
「これは、ディズィとちがって、きれいに忘れ去られた夢を、年から年へと持ち続けて
ゆくことの愚かさをわきまえている女だった。」
です。これも春樹訳の方だと、なんだかぴりっとした感じがします。
ま、どちらが原文に近いかは原書を持っていないので、分からないんですけど…。
買うかな・・・原書。

でも一番びっくりしたのはこのくだり。
「だって私―こんなにも素敵なシャツを、今まで一度も目にしたことがなかった。
それでなんだか急に悲しくなってしまったのよ。」

・・・一度読んだことがあるにも関わらず、ちっとも覚えてなかったくだりだったんですけど、
これって春樹の『トニー滝谷』(『レキシントンの幽霊』)のエピソードと同じじゃあないですか。

「これまでにこんなに沢山の綺麗な服を見たことがないので、
それでたぶん混乱しちゃったんです」

この箇所って『トニー滝谷』の中でも特に重要な箇所だと思うので、
この作品自体がもしかしたらフィッツジェラルドへのオマージュ?だったのかしら。
と今更気づいた私です。

今回改めて読み直してみて、興味深く気になる文章が他にもいくつもあったので、
もう三回は読み直しました。
これで私も「ノルウェイの森」の永沢さんと友達になれますね。

レキシントンの幽霊

レキシントンの幽霊

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1996/11
  • メディア: 単行本

ノルウェイの森〈上〉

ノルウェイの森〈上〉

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1987/09
  • メディア: 単行本

ノルウェイの森〈下〉

ノルウェイの森〈下〉

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1987/09
  • メディア: 単行本


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コメント 5

春分

村上春樹は、風の歌を聞いて、ピンボールして以来、読んでないかも。
いや、羊と冒険したけど、記憶にないかも。
ギャツビーも、散々読まないとと思って20年ほどたったと思います。
すみませんね、つまらないコメントで。読まなければならない本だらけだ。
by 春分 (2006-12-23 17:19) 

はてみ

村上春樹の翻訳した本は老後の楽しみにと思って、キャッチャーと空飛び猫とポテトスープが大好きな猫くらいしか読んでいませんが、これは読もうかなあと迷うところ。清水俊二訳「長いお別れ」は読みましたが、村上訳「ロンググッドバイ」が出たら、これも迷うなあ。
by はてみ (2006-12-23 23:39) 

knacke

村上春樹、だいすきー!
新しいのが出るたび、急いで本屋さんに行ってました。
by knacke (2006-12-25 02:04) 

いたちたち

>春分さん
世の中は実に読まなければならない本ばかり!!!
あの時この本を読んでいれば!と思うこともしばしばです~。

>はてみさん
老後の楽しみって~(笑)
その頃にはだいぶ内容も忘れるだろうから、今読んでも大丈夫ですよ。
きっと。なんて。

>きむたこさん
私も買いに走る方でした!嬉しくて嬉しくて。
あのわくわくが楽しみたくて、今やネットで本が買える時代となって
るのに、それが出来ない、したくない私です~。

ね。村上春樹いいですよね^^
by いたちたち (2006-12-25 09:52) 

さゆき

あけましておめでとうございます。
今頃ごめんなさいね(笑)。
今年もどうぞよろしくお願いします!

私、「グレート・ギャツビー」は
昔途中で挫折した覚えがあるんですよ・・・。
それから読んでいない!
「ノルウェイの森」は読みました。
村上さんの訳なら、もう一度チャレンジしてみたいな。
一番最近読んだ村上作品は「スプートニクの恋人」。
あぁ、なんだかいろいろ読みたくなってきちゃいました(笑)!
by さゆき (2007-01-11 00:00) 

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